IFRSか日本基準か|スタートアップの会計基準選択2026年版
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結論:上場準備のスタートアップは、日本基準を既定にし、IFRSは「採る理由を言える会社」だけが選ぶ。 会計基準の選択は上場審査の合否を分ける話ではなく、上場後の経営管理とコストの設計の話です。本稿は2026年10月14日時点で確認できる東証の公表資料に基づき、会計基準の選択を判断する3つの軸を整理します。
IFRS適用会社は318社、過半の時価総額を占めるまでになった
東京証券取引所は2026年7月31日、2026年3月決算会社までの「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析を公表しました。
| 区分 | 社数 |
|---|---|
| IFRS適用済 | 297社 |
| IFRS適用決定 | 20社 |
| IFRS適用予定 | 1社 |
| 合計 | 318社(前年比+18社) |
318社の時価総額の合計は708兆円で、東証上場会社全体(1,384兆円)の51.2%です(2026年6月末時点、前年比+1.4ポイント)。IFRSの適用を検討している会社も81社あります。
数字は日本取引所グループの一覧ページでも更新されています。2026年9月末現在はIFRS適用済303社・適用決定14社の合計317社です。7月の分析は2026年6月末までの開示をもとにした集計で、一覧ページは9月末時点です。時点と集計の定義が異なるため、引用するときはどちらの数字かを明記してください。
ただし、この318社は時価総額の大きい企業が中心です。スタートアップが同じ会計基準を選ぶべきかは、別に考える必要があります。
IFRSで新規上場した54社を上場年で数える
IFRSを適用して新規上場した会社は、日本取引所グループが一覧を公表しています。当編集部がこの一覧の上場日を年ごとに集計したところ、2014年から2026年10月14日時点の掲載分で54社でした。
| 上場年 | 社数 |
|---|---|
| 2014〜2020年(7年間) | 18社 |
| 2021年 | 10社 |
| 2022年 | 1社 |
| 2023年 | 10社 |
| 2024年 | 4社 |
| 2025年 | 9社 |
| 2026年(10月14日時点の掲載分) | 2社 |
2021年以降の6年間で36社と、全体の3分の2を占めます(36社÷54社)。2013年6月にIFRSの任意適用要件が緩和され、上場企業であること、海外で事業を行っていることが条件から外れました。これにより、IPO準備中の会社もIFRSで上場できるようになっています。
この一覧には、親会社の上場に伴うテクニカル上場2社(2021年・2022年)が含まれます。年ごとの件数は単年のぶれが大きく、右肩上がりとまでは言えません。読み取れるのは「IFRSでの新規上場は例外ではなくなった」という点までです。IPO全体に占める比率は、本稿では算出していません。
判断軸①:のれんの扱いが利益を動かす
IFRSと日本基準の会計基準の差で、スタートアップに最も効くのがのれんです。日本基準では、のれんを20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却します。IFRSでは償却せず、毎期1回以上の減損テストを行います。
金融庁が2024年8月に公表した「IFRSの適用状況に関する実態調査」では、任意適用を決めた理由で「業績の適切な反映」が最多でした。具体例として、のれんを償却しない点を挙げる企業が多くあります。
買収で成長する計画なら、IFRSは営業利益を押し上げます。反対に、買収の予定がなければ、この差は効きません。M&Aを成長戦略の柱に置くかどうかが、最初の分岐点です。
判断軸②:二重帳簿と審査対応のコスト
IFRSという会計基準を任意適用しても、IFRSで作るのは連結財務諸表だけです。単体の財務諸表は日本基準で作る必要があり、2つの基準で作業が走ります。金融庁の同調査では、ランニングコストとして監査報酬の増加と社内人件費の増加を挙げる声が多くありました。理由は3つあります。注記事項が多いこと、のれんの減損テストなど将来キャッシュ・フローを使う見積りが増えること、単体を日本基準で作る二重作業です。移行コストでは、導入支援のコンサルティング費用が金額の上位でした。
会計基準の選択は上場審査にも影響します。監査法人系の実務解説によると、IFRSで上場する場合は次の点が審査で追加で見られます。
- IFRSを導入した経緯と理由の確認
- IFRSベースの中期計画・予算・月次決算の運用
- のれんの会計処理
上場後は四半期ごとの決算短信を期末から45日以内に開示することが求められます。IFRSで連結を作る場合は、この期限に間に合うよう締めの日程を前倒しで組む必要があると説明されています。経理部門が少人数の段階でこの負荷を抱えられるかを、先に見積もってください。
判断軸③:移行にかかる期間は短くなっている
同じ調査で、売上高5,000億円未満の会社に限ると、IFRSへの移行準備期間が2年未満の会社の構成比は、約41%(32社中13社)から約53%(17社中9社)に上がりました。対象の社数は少なく、傾向の目安として読んでください。習熟が進み、日本基準との差が縮まったことが背景に挙げられています。「IFRSは準備に何年もかかる」という前提は古くなっています。
ただし、IFRSに精通した人材の不足は、適用時から現在まで共通の課題とされています。期間が短くなったことは、人材がいなくても移行できることを意味しません。
会計基準の選び方:3問で決める
| 問い | 日本基準を選ぶ | IFRSを選ぶ |
|---|---|---|
| 買収で成長するか | 予定は小さい | 柱に置く |
| 海外投資家を想定するか | 国内中心 | 海外比率が高い |
| 経理の体制 | 少人数 | 専任と外部支援がある |
3問すべてが右列なら、IFRSを具体的に検討する段階です。1つでも左列なら、日本基準で上場し、上場後に移行を判断する順序が現実的です。IFRSの適用を検討している会社が81社ある事実が示すとおり、上場後に移行する道も用意されています。
すでにIFRSを前提に資金調達先と話している場合は、投資家側の要請を確認してください。IFRSを採る理由が「周りが採っているから」しか言えないなら、採らないほうが安全です。 審査では、導入の経緯と理由を説明できることが求められます。
よくある質問
Q. IFRSで上場すると審査は厳しくなりますか。
審査の適用要件そのものは変わりません。ただし、IFRSを選んだ理由の説明、IFRSベースの予算・月次決算の運用、のれんの会計処理が追加の確認事項になります。
Q. 上場後に会計基準を日本基準からIFRSへ変えられますか。
移れます。東証の分析では、検討中の会社が81社、適用決定済みが20社あります。移行の時期は会社ごとに異なります。
Q. 単体の決算書もIFRSで作る必要はありますか。
ありません。IFRSを適用するのは連結財務諸表で、単体は日本基準で作成します。税務申告も日本基準の帳簿をもとに行います。
まとめ
- 会計基準の既定は日本基準。IFRSは3問のうち複数が右列に当てはまる会社が検討する
- 最大の差はのれん。買収で成長するかが最初の分岐点
- 二重帳簿で監査報酬と人件費が増える。上場準備の経理体制で耐えられるかを先に見積もる
上場準備全体の進め方はIPO準備チェックリスト、上場基準の変化は2026年のIPO市場の構造変化とスタートアップのIPO動向2026で整理しています。経理体制の内製化はスタートアップの経理体制構築も参考にしてください。
出典
- 東京証券取引所「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析について≪2026年3月決算会社まで≫」(2026年7月31日)
- 日本取引所グループ「IFRS適用済・適用決定会社一覧」(2026年9月末現在)、「IFRSを適用して新規上場した会社一覧」
- 金融庁「IFRSの適用状況に関する実態調査」(2024年8月)
- 金融庁「IFRS任意適用要件の緩和について」(企業会計審議会資料)
- RSM汐留パートナーズ「IPO準備会社のIFRS対応と税務論点」(2023年9月)
- あずさ監査法人「IFRSによるIPOのポイント」
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