第三者割当増資の手続き|契約締結から払込・登記までの実務と期限
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投資家と投資契約を結んだあとも、第三者割当増資は会社法の手続きを踏まなければ完了しません。非公開会社であれば、募集事項の株主総会(特別決議)→申込みと割当て(総数引受契約)→払込み→資本金の計上→本店での変更登記の順に進みます。この記事では、資金調達のクロージングで経営者とCFOが押さえるべき期限・書類・つまずきやすい点を、条文に沿って整理します。
調達全体の流れは「スタートアップの資金調達 完全ガイド【2026年版】」で扱っています。ここでは、契約締結後の増資手続きに絞ります。
第三者割当増資とは|既存株主に限らず特定の相手へ新株を発行する方法
第三者割当増資は、特定の投資家(VC、エンジェル、事業会社など)に対して新株を発行し、払込みを受ける方法です。スタートアップのエクイティ調達で一般的な形です。
会社法上は「募集株式の発行等」の手続きに当たります。公募増資や株主割当と違い、誰に何株を割り当てるかを会社が決められるため、決議の機関と通知のルールが会社の形態(公開会社か非公開会社か)で変わります。多くのスタートアップは株式に譲渡制限を付けた非公開会社なので、以降は非公開会社を基本に説明します。
手続きの全体像|決議から登記までの5ステップ
流れは次のとおりです。条文の根拠は後続の各章で示します。
| 段階 | 内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 1 募集事項の決定 | 株式数・払込金額・払込期日などを決議 | 会社法199条 |
| 2 申込みと割当て | 総数引受契約を結ぶ場合は省略可 | 会社法203〜205条 |
| 3 払込み | 払込期日に全額を払い込む | 会社法208条 |
| 4 株主となる | 期日(期間なら払込日)に株主になる | 会社法209条 |
| 5 変更登記 | 本店で2週間以内に登記 | 会社法915条 |
投資契約の署名日と、株主になる日(払込期日)は別の日です。払込みが済んだ時点で初めて、投資家は株主として権利を行使できます。
募集事項の決定|非公開会社は株主総会の特別決議が原則
会社は新株を発行するたびに、次の事項を定めます(会社法199条1項)。
- 募集株式の数
- 払込金額(または算定方法)
- 払込みの期日(または期間)
- 増加する資本金・資本準備金の額
- 現物出資をするときは、その財産の内容と価額
非公開会社では、この募集事項の決定は株主総会の決議によります(同条2項)。決議の要件は特別決議で、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項5号)。
押さえておきたい点は3つです。
- 取締役会への委任:総会の決議で、募集株式数の上限と払込金額の下限を定めたうえで、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社は取締役会)に委任できます。この委任は、払込期日が決議の日から1年以内の募集にだけ有効です(会社法200条)
- 有利発行:払込金額が引受人に「特に有利な金額」になる場合、取締役は総会で、その金額で募集する理由を説明しなければなりません(会社法199条3項)
- 種類株式:投資家が優先株式などの種類株式を引き受ける場合で、その種類が譲渡制限株式のときは、定款に別段の定めがなければ、その種類株主による種類株主総会の決議も必要です(会社法199条4項)
株主が少ない会社では、株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、総会を開かずに決議があったものとみなせます(会社法319条1項)。この場合、同意書面は本店に10年間備え置きます(同条2項)。
公開会社は別の扱いで、募集事項の決定は原則として取締役会が行い、払込期日の2週間前までに株主へ通知または公告が必要です(会社法201条)。株式に譲渡制限を付けていない会社が対象です。
決議前に詰めておくこと
払込金額と株数は、バリュエーションと希薄化から逆算して決まります。考え方は「資本政策とは」で、契約条件の読み方は「タームシートの読み方」で扱っています。決議の時点で金額・株数・払込期日が確定していないと、総会をやり直すことになります。
申込みと割当て|投資契約と総数引受契約を使うのが実務
法律の原則では、会社が申込者へ商号・募集事項・払込取扱場所を通知し(会社法203条1項)、申込みを受けて割当てを決め(会社法204条1項)、割当て株数を払込期日の前日までに通知します(同条3項)。
ただし、引受人が募集株式の総数を引き受ける契約(総数引受契約)を結ぶ場合は、203条と204条の手続きは適用されません(会社法205条1項)。VCなど特定の投資家と投資契約を結ぶ第三者割当増資では、この形がよく使われます。
非公開会社で募集株式が譲渡制限株式であるときは、総数引受契約について株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の承認が必要です。ただし、定款に別段の定めがある場合は除きます(会社法205条2項)。募集事項の総会決議と同じ総会で、あわせて承認を取る進め方も取れます。
契約書の確認ポイントは「契約書レビューの基礎」にまとめています。投資実行の前提条件として、投資家のデューデリジェンスが完了していることも欠かせません(「デューデリジェンスとは」参照)。
払込み|期日までに全額を、会社が指定した口座へ
引受人は、払込期日(期間を定めた場合はその期間内)に、会社が定めた銀行等の払込取扱場所で、払込金額の全額を払い込みます(会社法208条1項)。実務上は、会社名義の口座への振込です。
次の3点は、クロージングの現場で混乱しやすい部分です。
- 相殺はできない:引受人は、払込債務と会社に対する債権(たとえば貸付金)を相殺できません(会社法208条3項)。既存の貸付金を株式に振り替えたい場合は、現物出資など別の手続きを検討します
- 払込みをしなければ権利を失う:払込みをしない引受人は、株主となる権利を失います(会社法208条5項)
- 株主になる日:払込期日を定めた場合はその期日に、期間を定めた場合は出資の履行をした日に、引受人は株主となります(会社法209条1項)
払込みを仮装した場合の責任
払込みを仮装した引受人は、仮装した払込金額の全額を会社に支払う義務を負います。この義務は、総株主の同意がなければ免除できません(会社法213条の2)。口座に入金して即座に引き出す、といった見せ金の処理は避けます。
資本金の計上と変更登記|期限は払込みから2週間
資本金と資本準備金の額
払い込まれた額は資本金とするのが原則ですが、払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上せず、資本準備金にできます(会社法445条1項〜3項)。たとえば1億円の払込みなら、資本金を5,000万円以上にすれば、残りは資本準備金にできます。この配分は、募集事項の決議の時点で決めておく必要があります(会社法199条1項5号)。
登記の期限と登録免許税
増資で資本金と発行済株式数が変わるため、本店所在地での変更登記が必要です。期限は、変更が生じたときから2週間以内です(会社法915条1項)。払込期間を定めた場合は、期間の末日現在の内容で、末日から2週間以内に登記すれば足ります(同条2項)。
登録免許税は、法務局の申請書書式では、資本金の増加額に1000分の7を乗じた額で、3万円に満たない場合は3万円とされています。たとえば資本金が5,000万円増えるなら、登録免許税は35万円です。
登記に必要な主な書類
募集株式の発行による変更登記の申請書には、次の書面を添付します(商業登記法56条)。
- 募集株式の引受けの申込み、または総数引受契約を証する書面
- 金銭出資の場合、払込みがあったことを証する書面(通帳の写しなど)
- 現物出資の場合は、検査役の調査報告などの書面
あわせて、募集事項を決めた株主総会(または取締役会)の議事録も必要です(商業登記法46条2項)。書面による決議とみなす場合は、その事実を証する書面で代えます(同条3項)。実際の書類の組み方は、司法書士と事前に確認すると手戻りがありません。
手続きでつまずきやすい点|実務チェックリスト
最後に、よくある抜け漏れを整理します。
- 払込期日を決議した日付より前に設定していないか
- 払込金額・株数・資本金組入額が、決議・契約・入金額で一致しているか
- 総数引受契約の承認決議(譲渡制限株式の場合)を忘れていないか
- 複数の投資家が参加するとき、各投資家の払込日が揃っているか
- 払込期日から2週間以内に登記申請できるスケジュールか
- 登記後に、株主名簿を更新したか
よくある質問
第三者割当増資の手続きにはどのくらい時間がかかりますか?
法律が一律の期間を定めているわけではありません。決まっているのは、払込みの期日を決議の日から1年以内に置く場合の委任(会社法200条)や、払込み後の登記期限(2週間・会社法915条)などです。株主が少なく全員の同意が取れるなら、総会の招集手続きを省けます(会社法319条)。
総会を開かずに決議できますか?
株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。同意書面は本店に10年間備え置きます。
払込みのあと、いつから投資家は株主ですか?
払込期日を定めた場合はその期日、期間を定めた場合は払込みをした日から株主になります(会社法209条1項)。登記より前に株主になる点に注意が必要です。
まとめ
第三者割当増資の手続きは、①募集事項の決議、②総数引受契約、③払込み、④資本金の計上、⑤2週間以内の変更登記の順です。契約の署名で終わりではなく、払込期日の設定と登記スケジュールまで見て、はじめてクロージングが完了します。
調達の方法選びからラウンド別の相場、契約の読み方までは「スタートアップの資金調達 完全ガイド【2026年版】」にまとめています。CFO.Mediaの週次・月次レポートでは、調達の動向を継続的に取り上げています。個別の増資では、司法書士・弁護士への確認を前提に進めてください。
出典・参考
- 会社法(平成17年法律第86号) 第199条〜第209条、第213条の2、第309条、第319条、第445条、第915条
- 商業登記法(昭和38年法律第125号) 第46条、第56条
- 法務局「株式会社変更登記申請書 募集株式の発行(非公開会社のうち非取締役会設置会社)」 登録免許税の注記
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