スタートアップの損益分岐点と固定費|赤字の原因を切り分ける3つの指標
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赤字が続くとき、「売上が足りない」と一括りにすると打ち手がぼやけます。原因は、固定費が重いのか、1件売るごとに残る利益が薄いのか、売上そのものが届いていないのか、の3つに分かれます。
この3つを数字で切り分ける道具が損益分岐点です。この記事では、損益分岐点の考え方と、月次で追う3つの指標、赤字の原因を絞る手順を解説します。
結論:3つの指標を月次で並べると原因が絞れる
追う指標は、分岐点売上高、限界利益率、安全余裕率の3つです。分岐点売上高は「いくら売れば利益がゼロになるか」、限界利益率は「売上のうち固定費の回収に回る割合」、安全余裕率は「売上がどこまで落ちても赤字にならないか」を示します。
3つを同じ月次の表に並べると、前月との差が一目で分かり、固定費を削る局面か、価格や原価を見直す局面か、売上を伸ばす局面かが分かれます。
損益分岐点の基本:固定費と変動費を分ける
損益分岐点は、利益(通常は営業利益)がゼロになる売上規模のことです。金額で表したものを損益分岐点売上高と呼びます。中小企業基盤整備機構(J-Net21)も、費用を変動費と固定費に分けて算出する手法として解説しています。
- 変動費: 売上規模に応じて増減する費用。決済手数料、従量課金のサーバー費、外注費など
- 固定費: 売上に関係なく毎月かかる費用。正社員の人件費、オフィス賃料、固定額のツール費など
- 限界利益: 売上高から変動費を引いた額。固定費の回収に回る利益
限界利益が固定費の総額と等しくなった点が、損益分岐点です。実際には、費用を変動費と固定費にきれいに分けることはできません。J-Net21も、実状に合わせて簡便的に分類して使うよう案内しています。
指標1:分岐点売上高を月次で出す
損益分岐点売上高は、固定費 ÷ 限界利益率で求めます。限界利益率は、限界利益 ÷ 売上高です。
次の月次の例で計算します。数字は説明用の仮定です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 800万円 |
| 変動費 | 160万円 |
| 固定費 | 800万円 |
| 営業利益 | ▲160万円 |
限界利益は640万円、限界利益率は80%です。この分岐点売上高は、800万円 ÷ 0.8 = 1,000万円になります。いまの売上800万円から、あと200万円の上積みが必要です。
指標2:限界利益率で価格と原価の薄さを見る
限界利益率が低いと、売上を伸ばしても固定費が回収できません。たとえば限界利益率が50%なら、売上が100万円増えても、固定費の回収に回るのは50万円です。
限界利益率が下がる主な原因は、値引き、原価の上昇、従量課金コストの増加です。前月より率が落ちているなら、売上の増減より先に、価格設定と変動費の中身を確認します。
指標3:安全余裕率で売上の落ち幅に耐えられるかを見る
安全余裕率は、実際の売上がどこまで下がると赤字になるかを示す比率です。(売上高 − 分岐点売上高)÷ 売上高で出します。J-Net21も、分岐点が低く売上が高い企業ほど余裕率が高くなると説明しています。
先ほどの例では、(800万円 − 1,000万円)÷ 800万円 = ▲25%です。マイナスは、すでに利益ゼロの売上を下回っていることを意味します。黒字の月でも、余裕率が数%しかなければ、売上が少し落ちるだけで赤字に戻ります。
赤字の原因を切り分ける3ステップ
3つの指標を使い、次の順で原因を絞ります。
- 損益分岐点売上高と実際の売上を比べる。 差が小さいなら売上の積み上げで足ります。差が大きいなら次へ進みます。
- 限界利益率を過去3か月と比べる。 下がっていれば、価格や変動費が原因です。横ばいなら、固定費の水準が問題です。
- 固定費の内訳を見る。 人件費、賃料、ツール費のうち、売上の見通しに対して先行している項目を特定します。
スタートアップでは、採用による人件費の先行が固定費を押し上げる典型です。固定費が増えた月は、分岐点売上高がいくら上がったかを先に確認します。
分岐点を下げる3つの手段
J-Net21は、分岐点を下げる方法として、販売価格を上げる、変動費率を下げる、固定費を削減する、の3つを挙げています。同記事の例(単価1,000円・仕入800円・固定費30万円)では、分岐点の販売量は1,500個です。
- 販売価格を100円上げると、1,000個まで下がる
- 1個あたりの変動費を100円下げても、1,000個まで下がる
- 固定費を15万円削減すると、750個まで下がる
同記事は、固定費の削減は分岐点への影響が大きいとも述べています。ただし、スタートアップでは開発や採用を止めると成長が止まります。削る前に、その固定費が将来の売上につながるかを判断してください。
月次で運用する際の注意
月次の表は、売上高、変動費、固定費、限界利益率、分岐点売上高、安全余裕率の6行で足ります。月次決算が締まったら同じ表に1列足し、3か月分を横に並べて前月との差を見ます。数字が動いた行が、次の議論の入口になります。
- 費用の分類ルールを固定する。 広告費のように扱いが分かれる費用は、「変動費とみなす」などの方針を決め、毎月同じ基準で集計します。基準が動くと月次比較ができません。
- 営業利益ベースで見る。 この指標は営業利益がゼロになる点を指します。資金の動きは別に見る必要があります。
- 資金繰りと並べる。 利益ゼロの売上を超えても、入金が遅れれば資金は減ります。手元資金の残り期間は、バーンレート管理とランウェイ計算で確認してください。
よくある質問
Q. 損益分岐点売上高を下回っていても資金調達はできますか?
調達自体は可能です。ただし、限界利益率が確保されているか、固定費が成長投資として説明できるかは、投資家に示せる状態にしておく必要があります。黒字化の道筋は、黒字化への道筋設計も参考にしてください。
Q. 人件費はすべて固定費ですか?
正社員の給与は、売上に関係なく毎月発生するため、固定費として扱うのが一般的です。成果に連動するインセンティブや、売上に応じて増える外注費は、変動費として切り分けます。
Q. 損益分岐点はどのくらいの頻度で見直しますか?
月次決算のたびに更新するのが目安です。採用、値上げ、新プランの投入で費用構造が変わったときは、その月のうちに再計算します。
Q. 財務諸表のどこを見れば固定費がわかりますか?
損益計算書の販売費及び一般管理費と売上原価を、変動費と固定費に仕分けて見ます。読み方の基本は、PL・BS・CFの読み方で解説しています。
まとめ
- 損益分岐点は、費用を固定費と変動費に分けて、利益がゼロになる売上を求める手法
- 追う指標は、分岐点売上高、限界利益率、安全余裕率の3つ
- 赤字の原因は、売上不足、限界利益の薄さ、固定費の重さの順に切り分ける
- 費用の分類ルールは固定し、月次で同じ基準で比較する
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出典・参考
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」https://j-net21.smrj.go.jp/qa/financial/Q0240.html
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